
社長逮捕から2ヶ月で起訴・代表交代。それでも営業は止まっていない。退職代行50社すべてが設立10年以下という業界構造が、今の混乱の正体だ。
退職代行モームリが2026年4月に再び検索急上昇している。2月の社長逮捕、3月の起訴・代表交代、そしてゴールデンウィーク前の新卒退職ラッシュ。この3つの出来事が4月のこのタイミングで重なったのが再注目の直接的な理由だ。ただ、表面的なスキャンダルを追うだけでは本質を見誤る。この記事では、モームリ事件の時系列と、なぜ非弁提携ビジネスが業界構造の中で生まれたのかを整理する。
結論から言えば、モームリ事件は「1社の暴走」ではなく、退職代行業界50社すべてが設立10年以下という業界ガバナンスの空白が生んだ構造的な事件だ。読者が安全に退職代行を利用するための見極め基準までを、一次情報をもとに解説する。
本記事はFixer博鷹が調査・執筆している。掲載情報は執筆時点のものだ。数値・制度・サービス内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトで確認してほしい。
退職代行モームリで今、何が起きているのか|時系列で整理する

家宅捜索から起訴まで4ヶ月半で決着。時系列を並べると、この事件が単発ではなく「10ヶ月前に文春が報じた構造」の帰結であることがわかる。
2026年2月の社長逮捕と起訴|容疑は「非弁提携」
2026年2月3日、警視庁は退職代行モームリを運営する株式会社アルバトロス(本社・横浜市中区)の代表取締役・谷本慎二容疑者(37)と、妻で退職支援事業部長の志織容疑者(31)を弁護士法違反(非弁提携)の疑いで逮捕した。逮捕容疑は、2024年7月から10月までの4ヶ月間に、弁護士資格がないにもかかわらず報酬を得る目的で6人の依頼者を提携弁護士事務所に紹介したというものだ。
この容疑における重要な数字は「1人あたり16,500円のキックバック」だ。提携弁護士事務所が受領する着手金55,000円の30%が、広告業務委託費や労働組合への「賛助金」という別名目でモームリ側へ戻されていたとされる。谷本夫妻は容疑を否認しており、「弁護士法違反になるとは思っていなかった」と説明している。
さらに3月4日、東京地検は弁護士法違反罪で夫妻を起訴した。同日付で警視庁は組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)の疑いでも4人を追送検。あっせんを受けた弁護士法人「オーシャン」所属の弁護士と「みやび」所属の弁護士、両法人自体も同罪で在宅起訴されている。事件は1社の不祥事ではなく、民間業者と提携弁護士の両方を巻き込んだ構造事件として司法判断を受ける段階に入った。
3月末の代表変更と営業継続
起訴から約1ヶ月後の2026年3月31日までに、アルバトロスは会社HP上で代表者を変更した。新代表は広報担当だった浜田優花氏だ。逮捕・起訴された谷本前社長は経営から退いた形になる。ただし、サービス自体は停止されておらず、モームリは公式サイトで「本日〇名の退職確定」という日次の実績報告を継続して発信している。
この「経営者は交代したがサービスは続いている」という状態が、利用を検討する読者を迷わせる要因になっている。料金は従来どおり、正社員22,000円・アルバイト12,000円の価格帯が維持されている。
4月のGW前退職ラッシュで再注目|検索急上昇の直接要因
2026年4月に入り、退職代行関連の検索が急増している。直接の引き金は新卒の「初日退職」報道だ。テレビ朝日によれば、退職代行ガーディアンでは4月1日から3日までの3日間で、新卒からの依頼が11件。全体依頼数の3割を占めた。入社前に提示された労働条件通知書と実態の乖離がミスマッチの最大要因だという。
モームリ自身も同様のGW前急増を公表してきた企業だ。過去のIR的発信では、4月1日に5件、3日で33件と、入社直後の依頼件数が跳ね上がる季節性を繰り返し発信してきた。この季節性の需要と、2月〜3月に積み上がった逮捕・起訴・代表交代のニュースの続報を求める検索行動が重なり、2026年4月にモームリは再び検索トレンド入りした。
なぜ4月に退職代行が急増するのか|労務構造の背景

「4月に依頼が跳ねる」のは業界全体で毎年繰り返される季節性だ。厚労省の離職率データ12.1%と退職代行の利用タイミングが重なる点に本質がある。
新卒即日退職の季節性|厚労省データが示す12.1%の離職率
退職代行の依頼が4月に急増するのは偶然ではない。厚生労働省が2025年10月に公表した最新データ(令和4年3月卒業者)では、新規大卒就職者の1年以内離職率は12.1%。入社後わずか1年で約8人に1人が職場を去る計算になる。3年以内離職率は33.8%で、2000年代以降続く「3年で3割」の水準が2020年代も継続している。
この構造の中で、退職代行の4月ピークが毎年起きる理由は明確だ。入社前の条件通知書と実態の乖離が、入社初日から数日のうちに判明するからである。退職代行ガーディアンの長谷川義人代表はテレビ朝日の取材に対し、「労働環境の条件の相違によるミスマッチが圧倒的に多い」と説明している。実際に入社1日で退職を決めた女性のコメントも報じられており、「3年は続けろ」型の社会規範が機能しなくなっている現実を示している。
有給付与前の退職ニーズが依頼を押し上げる
4月〜6月の退職依頼を押し上げるもう一つの制度要因が、有給休暇の付与タイミングだ。労働基準法では入社後6ヶ月経過で10日の有給が付与される。つまり4月入社の新卒社員は、10月までは有給休暇を持たない状態で勤務することになる。退職の意思を会社に直接伝えることすら体調的に難しい人にとって、有給消化を介さず即日で退職の意思伝達を外部委託できる退職代行のニーズは、この期間に集中しやすい。
加えて、ゴールデンウィークの長期休暇が退職の「区切り」として機能する点も見逃せない。連休中に冷静に自分の状況を見直し、連休明けに退職を決断するパターンが毎年観測されている。退職代行Jobsの責任者は「4月から6月にかけて新卒からの相談が月間100〜150人に達することもある」と公表しており、この時期の需要集中は業界全体で共通している。
ちなみに、こうした「会社を辞めるわけではないが、最低限の仕事しかしない」という静かな退職もまた、同じ労働市場の延長線上にある現象だ。この点については静かな退職が半数に迫る理由と構造を解説で詳しく分析している。退職代行と静かな退職は、出口の違いはあるものの、「合わない環境に留まり続けない」という若年層の行動原理を共有している。
なぜ非弁提携ビジネスが成立してしまったのか|業界構造の分析

退職代行業界50社すべてが設立10年以下。ガバナンスが成熟する前に需要だけが爆発し、法律の境界を曖昧にしたまま事業化したのが構造問題の本質だ。
「伝達のみ」と「交渉」の境界線が曖昧なビジネス
退職代行ビジネスの根本的な構造問題は、弁護士法72条が定める「非弁行為の禁止」の境界線に常にまたがっている点にある。同条は、弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律事務を扱うことを禁止している。退職代行が民間業者として合法的に行える業務は、原則「本人の退職意思を会社に伝えること」だけだ。
しかし実務の現場では、「退職日の調整」「有給休暇の取得」「残業代・退職金の請求」といった交渉事が必ず発生する。これらはすべて法律事務に該当し、弁護士または弁護士法人しか扱えない。民間業者の建前と、依頼者が実際に求めているサービスとの間には、最初から大きなギャップがあった。このギャップを埋めるために業界が編み出した手法が、弁護士事務所との提携と、労働組合との連携だ。
16,500円×6人の容疑が示す「システム化された非弁」
モームリの逮捕容疑を構造的に見ると、単発の不手際ではなく、意図的に設計された収益モデルであることが浮かび上がる。具体容疑は2024年7月から10月の4ヶ月間、6人の依頼者を提携弁護士事務所に紹介し、1人あたり16,500円の紹介料を受領したというものだ。この金額は、提携弁護士が依頼者から受領する着手金55,000円のちょうど30%にあたる。
さらに重要なのは、この16,500円が直接的な紹介料として授受されたのではない点だ。日経の報道によれば、アルバトロスへの入金は「ウェブ広告業務委託費」や、関係する労働組合「労働環境改善組合」への「賛助金」という別名目で処理されていた。労働組合の代表者は警視庁の事情聴取に対し、組合に活動実態がなく「モームリを運営するための仕組みだった」と供述している。
4ヶ月で6人・1人16,500円・合計99,000円。金額の小ささが逆説的に本質を示している。「1件ごとの振り込み」ではなく「毎月の定額取引」に近い構造だ。ウェブ広告費と賛助金という別名目の使い分けは、非弁提携が偶発的ではなく、帳簿上でも分離処理されていた可能性を示唆する。これが、警視庁が組織犯罪処罰法違反(犯罪収益隠匿)で追送検した理由だと考えられる。
東商リサーチ「50社すべて設立10年以下」という業界の若さ
モームリ事件を「1社の暴走」で片付けられない理由が、業界構造にある。東京商工リサーチが企業データベースから抽出した結果、弁護士法人を除いて事業目的に「退職代行」を掲げる企業は50社存在する。そして、この50社すべてが設立10年以下だ。最も古い業者でも10年未満、業界自体が2016年頃に登場したばかりの新興領域であることがデータから明確に読み取れる。
10年という期間は、業界の自主規制ルールが形成される時間として十分ではない。業界団体による倫理規程、法律事務との業務範囲の明確化、広告表示ガイドラインといったガバナンス要素は、通常15〜20年の歴史を持つ業界で段階的に整備される。退職代行業界は需要の爆発的な伸びに対して、ガバナンス整備が完全に後追いとなった典型的なケースだ。
TSRの2025年6月調査では、退職代行業者から連絡を受けた企業は全体の7.2%、従業員5,000人以上の大企業では15.7%に達した。需要側(利用する労働者)と供給側(退職代行業者)の両方が急拡大する一方で、この市場を規律する法的フレームは弁護士法72条という既存の禁止規定のみで、業界特有のルールは存在していない。モームリ事件は、こうしたガバナンス空白の時期に起きた最初の大規模摘発だと位置付けられる。
退職代行サービスを安全に使うために|読者への影響と見極め基準

「退職代行は全部危険」ではない。運営主体の3類型を理解し、自分の退職に必要な業務範囲を明確にすれば、適切な選択はできる。
◆ 民間業者:退職の意思伝達のみ。料金2〜3万円。交渉行為は非弁行為の可能性
◆ 労働組合:団体交渉権により有給・残業代の交渉可。料金3万円前後
◆ 弁護士・弁護士法人:すべての法律事務を代理可。料金5〜10万円+成功報酬
※ 出典:弁護士法72条、労働組合法、および各業者の公表料金体系を基に当サイトが独自に整理
見極めの3つの基準|何を依頼したいかで選ぶ
退職代行を利用する際に最優先で整理すべきは、「自分の退職に法的交渉が必要かどうか」だ。円満に退職でき、有給も残業代も問題がないケースでは、民間業者の2万円前後のサービスで十分機能する。しかし、会社から退職を認められない、未払い賃金がある、有給消化を拒否されるといった法的交渉が絡む場合は、労働組合型か弁護士型を選ばなければ、そもそも業務範囲外で対応できない。
第2の基準は運営主体の明確性だ。「弁護士監修」という表記があっても、実際の業務を担うのが民間業者であれば、交渉行為は非弁行為にあたる可能性がある。モームリ事件の核心はまさにここだった。「労働組合と提携している」という説明についても、その組合が実態のある団体交渉権を行使できる組織なのか、それとも名目上の存在なのかの見極めが必要だ。
第3の基準は料金の透明性だ。正社員向けの民間業者の相場は2〜3万円、労働組合型は3万円前後、弁護士型は5〜10万円に成功報酬が上乗せされる。相場から大きく離れた極端な低価格は、その分どこかで収益を補う構造があるということであり、それが非弁提携型キックバックに繋がるリスクの温床となる。
弁護士運営と民間業者運営の決定的な違い
弁護士が運営する退職代行は、すべての業務を1社で完結できる。退職意思の伝達、退職日の調整、有給休暇の取得交渉、未払い残業代・退職金の請求、さらには会社側から損害賠償を請求された場合の代理応訴まで、法律事務の範囲に制限がない。料金は高いが、退職に複雑なトラブルが予想されるケースでは総額コストで見ると逆に割安になる場合もある。
一方、民間業者は「伝達のみ」という線を厳守している限り合法だ。問題が生じるのは、依頼者が「交渉してほしい」と希望した瞬間に、民間業者がそれに応じて交渉を行ったり、裏で弁護士に依頼を流して紹介料を得たりする場合である。利用者側としては、「民間業者に依頼する場合は、交渉が必要になった時点で別途弁護士に切り替える」前提で選ぶのが安全だ。
フィクサー博鷹の分析|モームリ事件が業界に残す3つの構造変化

司法判断の行方より重要なのは、この事件が退職代行業界のガバナンスをどう変えるかだ。3つの構造変化に絞って分析する。
① 業界再編の加速:弁護士型・労組型へのシフトが進む
② 「監修」表記の規制:弁護士監修の実態開示が社会的に要求される
③ 企業側の対応硬化:TSR調査で企業の3割が退職代行を「取り合わず」
第1の構造変化は、業界内部での再編が加速することだ。モームリは2025年1月期に売上約3億3000万円、累計退職確定件数45,000件超を誇った業界最大手であり、その最大手が司法判断の俎上に載ったことは、他の民間業者への強いシグナルになる。ベンナビ労働問題や伊藤塾コラムなど、弁護士系メディアがこぞって「弁護士運営」「労組運営」を推す構図が鮮明になっており、民間業者は業務範囲の再定義を迫られる。
第2の変化は、「弁護士監修」という表記の実態開示が社会的に求められる点だ。これまで多くの民間業者が広告やHPで「弁護士監修」を謳ってきたが、その実態は「個別案件への関与なし、規約のチェックのみ」というケースが多かった。モームリ事件をきっかけに、監修弁護士との契約形態、報酬の性質、関与範囲の開示が、業界の透明性基準として定着する可能性が高い。
第3の変化は、企業側の受け止め方の硬化だ。東京商工リサーチが2026年4月15日に公表した最新調査では、退職代行業者からの連絡に対し、企業の約3割が「取り合わない」対応をしていることが判明した。有給や退職日の交渉通知を受けた企業も3割にのぼる。労働者保護の観点からは慎重な評価が必要だが、少なくとも企業側が「民間業者からの連絡」を過去のように受け入れる時代は終わりつつある。退職代行を利用する側も、業者選びの目利きがこれまで以上に問われる局面に入っている。
よくある質問(FAQ)

検索で多い3つの疑問に絞った。特に「サービス継続中だが使って大丈夫か」は今の時点で最も判断が難しい論点だ。
Q1. モームリは今もサービスを続けていますか?
はい、2026年4月時点でサービスは継続しています。3月末に代表者が浜田優花氏に交代しましたが、新規の退職代行依頼の受付は停止されていません。公式サイトでは日次の退職実績報告が継続して更新されています。ただし、逮捕・起訴された旧経営陣のもとで確立されたビジネスモデル自体は司法判断の対象となっているため、利用にあたっては現時点の業務体制を公式サイトで直接確認することをおすすめします。
Q2. 谷本前社長らは有罪になったのですか?
2026年3月4日に東京地検が弁護士法違反罪で起訴した段階です。起訴されたからといって有罪が確定したわけではありません。谷本被告夫妻は「弁護士法違反になるとは思っていなかった」と容疑を否認していると報じられています。今後、公判で事実関係と法的評価が審理されることになります。刑事裁判の結果が出るまでは、法的には推定無罪の立場です。
Q3. 今使うならどの退職代行が安全ですか?
運営主体が明確で、料金と業務範囲が一致しているサービスを選ぶのが基本です。円満退職なら民間業者、有給や残業代の交渉が必要なら労働組合または弁護士運営が適切です。特定のサービス名を推奨することは控えますが、判断のポイントは「運営会社の商業登記上の事業目的」「提携弁護士・組合の明示」「料金構造の透明性」の3点で確認できます。なお、現在裁判中の事業者を選ぶかどうかは、利用者自身のリスク許容度の問題となります。
まとめ|モームリ再注目の本質は業界構造の転換点

この事件は「モームリ1社の問題」ではなく「業界ガバナンス成熟のテストケース」だ。読者が取るべき具体的な行動は3つに絞れる。
◆ モームリ再注目の3要素:2月逮捕・3月起訴と代表交代・4月GW前の新卒退職ラッシュが同時発生
◆ 事件の構造:1人16,500円×6人の紹介料が「賛助金」に偽装された、システム化された非弁提携
◆ 業界の若さ:退職代行企業50社すべてが設立10年以下。ガバナンス空白期の事件
◆ 選び方の3基準:運営主体の明確性・業務範囲の一致・料金の透明性
◆ 利用時の前提:交渉が必要になった時点で弁護士への切替を想定する
退職代行モームリの再注目は、表面的なスキャンダルの続報ではなく、日本の退職代行業界が構造転換期に入ったことを示す現象だ。需要側(退職代行を求める労働者)と供給側(代行業者)の両方が2010年代後半から急拡大する一方で、業界を規律する法的ルールは弁護士法72条という既存規定のみで、業界特有のガバナンス整備は後追いになっている。
読者が取るべき行動は3つに集約される。第1に、自分の退職状況で法的交渉が必要かを整理すること。第2に、運営主体(民間・労組・弁護士)と業務範囲の対応を理解した上で選ぶこと。第3に、料金が相場から大きく外れていないかを確認することだ。この3点を押さえれば、業界のどの段階の事業者を選んでも、過度なリスクを避けて退職という重要な意思決定を進められる。
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