
月7989円、過去最高。上がり続ける構造を3つの要因で分解する。
75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の保険料が、2026〜27年度に月額7,989円(全国平均)で過去最高を更新した。前期(2024〜25年度)比で7.8%・578円の増加であり、2008年の制度創設時から約51%上昇している。
結論から言えば、この上昇は「高齢者が増えたから」という単純な話ではない。2023年の改正健保法で導入された「現役世代との負担伸び率の均等化」と、2026年度から新設された「子ども・子育て支援金」という2つの制度設計の転換が、保険料を構造的に押し上げている。
この記事では、厚生労働省の公式データをもとに、保険料が上がり続ける3つの構造的要因、都道府県で2倍以上の格差が生じる背景、そして今後の見通しを整理する。
本記事はFixer博鷹が調査・執筆している。掲載情報は執筆時点のものだ。数値・制度・サービス内容は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトで確認してほしい。
後期高齢者の保険料が過去最高を更新|何が起きたのか

まず、2026年度に何が変わったのかを整理する。今回は2つの「新しい負担」が同時に加わった年だ。
2026年度の改定内容
厚生労働省が2026年4月に公表した「令和8・9年度の保険料率」によると、75歳以上の被保険者1人当たりの平均保険料は月額7,989円となった。年額に換算すると95,875円であり、前期(2024〜25年度の平均7,411円)から578円・7.8%の増加だ。
さらに今回から新たに「子ども・子育て支援金」が加わった。月額194円と少額だが、これを合わせると実質的な保険料負担は月額8,183円になる。子育て支援金は2026年度から2028年度まで毎年料率が変わるため、今後も追加負担が増える構造だ。
保険料の上限額も引き上げ
高所得層に適用される賦課限度額も見直された。医療分の上限は80万円から85万円に5万円引き上げられ、子ども分2.1万円を加えると年間最大87.1万円が上限となる。制度創設時の上限50万円から74%増だ。ただし、この上限に達するのは年収1,000万円超の高所得層に限られる。
なぜ上がり続けるのか|3つの構造的要因

「高齢化で医療費が増えた」は間違いではないが、それだけでは説明できない。制度設計そのものが変わった点を押さえる必要がある。
要因①:団塊世代が75歳に到達し被保険者が急増
最大の要因は、1947〜49年生まれの団塊世代が2022年から順次75歳に到達し、後期高齢者医療制度の被保険者が急増していることだ。後期高齢者の人口は2020年の約1,872万人から2025年には約2,180万人に増加したとされる。
被保険者が増えれば医療費の総額も増える。75歳以上の1人当たり年間医療費は約93万円で、現役世代(約22万円)の4倍以上だ。この「量の増加」が保険料を押し上げる最大のドライバーとなっている。
要因②:現役世代との負担伸び率が「均等化」された
2つ目の要因は、多くのメディアが見落としている制度設計の転換だ。2023年5月に成立した改正健康保険法により、「後期高齢者1人当たりの保険料」と「現役世代1人当たりの後期高齢者支援金」の伸び率が同程度になるよう見直された。
従来は後期高齢者の保険料負担率(医療給付費に占める保険料の割合)が低く抑えられていたため、現役世代の負担がより速いペースで増加していた。厚生労働省のデータでは、制度創設の2008年度と比較して、後期高齢者の保険料は約2割増だったのに対し、現役世代の後期高齢者支援金は約7割増と3倍以上の差があった。
この不均衡を是正するために、高齢者側の負担率を段階的に引き上げるルールが導入された。つまり、今後は現役世代の負担が増えるペースと同じだけ、高齢者の保険料も上がる構造に変わったのだ。これは単発の値上げではなく、制度の根本的な仕組みの変更であり、今後も保険料上昇が続く構造的な原因となっている。
要因③:子ども・子育て支援金が2026年度から新設
3つ目は、2026年度から始まった「子ども・子育て支援金制度」だ。少子化対策の財源として、後期高齢者も含む全保険加入者から支援金を徴収する仕組みが導入された。
後期高齢者の負担は月額194円(年額2,333円)で、金額自体は大きくない。しかし重要なのは、この支援金が2028年度まで毎年料率が変わる設計であり、今後増額される可能性がある点だ。医療費とは別の名目で保険料に上乗せされる仕組みが新たに加わったという事実が、制度設計上の大きな転換点となっている。
都道府県で2倍の格差|なぜ住む場所で保険料が違うのか

同じ制度なのに、住む場所で月5,000円以上の差がある。この格差の正体を見る。
後期高齢者医療制度は「全国共通の制度」だが、実際の保険料率は都道府県ごとの広域連合が決定する。そのため、住む場所によって保険料が大きく異なる。
2026〜27年度のデータでは、最も高い東京都が月10,352円、最も低い青森県が月4,990円で、その差は2.1倍・月5,362円にもなる。この格差が生じる主な理由は3つある。
第一に、地域ごとの医療費水準の違いだ。都市部は専門医や高度医療機関が集中しており、受診機会が多く、1人当たり医療費が高くなる傾向がある。第二に、被保険者の所得水準だ。東京都は高所得者が多いため、所得割の基準額が高くなる。第三に、広域連合ごとの財政運営だ。剰余金や基金の活用度合いによって、保険料の上昇幅を抑えている自治体もある。
なお、45都道府県で保険料が上昇した中、青森県と山梨県の2県だけは前期から据え置きまたは微減となった。これは両県の広域連合が基金を活用して上昇を抑えた結果だが、基金には限りがあるため、次回以降の改定では反動的な上昇が予想される。
今後どうなる?次回改定と読者への具体的な影響

2028年度の次回改定では、さらに上がる可能性が高い。今のうちに備えを考えておきたい。
次回2028年度改定での上昇はほぼ確実
保険料が次回改定で下がる可能性は極めて低い。理由は明確で、上昇の3要因がいずれも解消される見込みがないからだ。
団塊世代の75歳到達は2024年にピークを迎えたが、2028年度時点でもこの世代は全員が後期高齢者に入っている状態が続く。被保険者数は高止まりし、1人当たり医療費は高齢になるほど上がるため、医療費総額の増加は止まらない。
また、子ども・子育て支援金は2026〜28年度にかけて毎年料率が改定される設計だ。現時点で月194円の負担が、2028年度にはさらに増額される可能性がある。この制度は医療保険料に上乗せする形で徴収されるため、保険料の総額は構造的に増え続ける。
読者が今すぐ確認すべき3つのこと
制度の仕組みは変えられないが、自分の負担を正確に把握し、使える軽減措置を確実に受けることは可能だ。以下の3点を確認してほしい。
第一に、自分の都道府県の保険料率を調べることだ。お住まいの広域連合の公式サイトに令和8・9年度の料率が掲載されている。同じ年金額でも、住む場所で保険料が月数千円変わる。
第二に、7月に届く保険料額決定通知書を必ず確認することだ。この通知書に記載された金額が実際に天引きされる保険料だ。前年の所得が反映されるため、退職直後は想定外の金額になることがある。
第三に、低所得者軽減の対象になっていないか確認することだ。年金収入153万円以下の方は均等割のみの負担で、今回の制度改正による保険料増はない。年金収入211万円以下の方も、所得割の軽減措置が適用される可能性がある。市区町村の窓口に問い合わせれば、軽減の適用状況を教えてもらえる。
フィクサー博鷹の分析|「全世代で支え合う」は維持できるか

制度の数字を追うと見えてくるのは、「今後も上がり続ける」という構造的な宿命だ。
後期高齢者医療制度の財源構造は「公費5割・現役世代の支援金4割・高齢者の保険料1割」だ。つまり、制度全体の9割を税金と現役世代の保険料で支えている。この構造のまま被保険者が増え続ければ、現役世代の負担は物理的に限界を迎える。2023年の法改正は、その限界を先延ばしするために「高齢者自身の負担を増やす」方向に舵を切った制度転換だ。今後2年ごとの改定のたびに保険料が上がり続ける蓋然性は高いと私は見ている。
この問題の本質は「誰が悪い」という話ではない。制度創設時(2008年)から高齢者の保険料は約2割しか増えなかった一方で、現役世代の後期高齢者支援金は約7割増加した。この不均衡を放置すれば現役世代が先に限界を迎える。改正健保法による「伸び率の均等化」は、痛みの配分を見直したという点で合理的な判断だ。
しかし、より根本的な問題は財源構造にある。後期高齢者の保険料が全体の1割しか賄っていない以上、残り9割の公費と支援金をどう確保するかが常に課題となる。現役世代の人口が減り続ける中で「全世代で支え合う」という理念を維持するには、医療費そのものの抑制か、新たな財源の確保か、あるいはその両方が必要だ。
読者が取るべきアクションとしては、まず自分の都道府県の保険料率を確認すること、次に7月に届く保険料額決定通知書で実際の金額を把握すること、そして低所得者向けの軽減措置に該当しないか窓口に確認することだ。年金収入153万円以下の方は均等割のみの負担で、今回の制度見直しによる負担増は生じない。
よくある質問(FAQ)

保険料通知を見て驚いた方から特に多い疑問を整理した。
Q. 年金が少ないのに保険料が高いのはなぜですか?
後期高齢者医療保険料は前年の所得に基づいて計算されます。退職直後の方は、在職時の給与収入が前年の所得に反映されるため、年金収入に切り替わった後も一時的に高い保険料が課されることがあります。退職の翌々年からは年金収入のみで計算されるため、保険料が下がる見込みです。
Q. 子ども・子育て支援金とは何ですか?75歳以上も払うのですか?
2026年度から始まった制度で、子育て世帯への給付拡充の財源として、後期高齢者を含む全保険加入者から徴収されます。後期高齢者の負担は月額194円(2026年度)です。2008年以前は高齢者世代も出産育児一時金の費用を負担しており、制度としては「元に戻した」側面もあります。
Q. 保険料が払えない場合はどうすればいいですか?
低所得者向けの軽減措置があります。世帯の所得状況に応じて、均等割額が7割・5割・2割軽減されます。年金収入153万円以下の方は制度見直しに伴う負担増がありません。まずはお住まいの市区町村の後期高齢者医療担当窓口にご相談ください。
結論|制度設計が変わった以上、保険料上昇は止まらない

数字に驚くよりも、構造を理解して備えることが大事だ。
後期高齢者医療保険料は2026〜27年度に月額7,989円で過去最高を更新した。上昇の背景には、①団塊世代の75歳到達による医療費総額の増大、②2023年改正健保法による現役世代との負担伸び率均等化、③子ども・子育て支援金の新設という3つの構造的要因がある。都道府県間で最大2.1倍の格差が生じているのは、地域の医療費水準と所得水準の差が原因だ。制度設計そのものが「今後も上がり続ける」方向に変わった以上、自分の保険料額と軽減措置を把握し、家計への影響に備えることが重要だ。
後期高齢者医療保険料の上昇は、高齢化という不可逆な人口動態と、2023年に転換された制度設計が掛け合わさった結果だ。「高齢者が増えたから仕方ない」と片付けるのではなく、なぜこのタイミングでこれだけ上がったのかを構造的に理解することが、今後の家計設計の第一歩になる。
7月に届く保険料額決定通知書は、この構造を具体的な金額として突きつけてくる。届いたらまず軽減措置の適用有無を確認し、不明点があれば自治体の窓口に問い合わせてほしい。制度を知ることが、最も効果的な「対策」だ。
※ 当記事はファクトチェック済みだ。
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