第十五回酒都で聴く居囃子の会 「鉢木」



令和2年12月19日(土)
会場 白鷹禄水苑 宮水ホール
午後14:00開演(開場・受付開始13:30)


古くから芸能と縁の深い酒都・西宮の造り酒屋において、地元在住の能楽師による謡と囃子で、能特有の音楽性と言葉の美しさを楽しむ「居囃子の会」。15回目となる今回は、11月に開催した《酒屋万来文楽》と共に「芸能に見る忠義のかたち」を共通テーマとし、「いざ鎌倉」の名言を生んだ冬の名曲「鉢木」を取り上げました。シテとワキの会話を中心とした進行や、後場に用意された劇的な展開など、明快で解り易く演劇性の濃い演目ですが、和漢の詩や故事を引きながら、格調高い詞と謡で描かれるシテの心象風景は大きな聴きどころとなっています。

今回前半の第一部では、ほのぼのとした夫婦愛を感じさせる狂言「鬼瓦」、そして続く講談では、常世がいざ鎌倉と駆け付ける様子を、講談独特の「修羅場読み」で語る名場面『源左衛門の駆け付け』をお聞きいただきます。そして前半最後は能「巴」より、巴が迫りくる敵を長刀で追い払い最後の武勇を見せる場面を謡と小鼓の独鼓でお聴きいただきます。 尚7月に急逝された旭堂南陵さんに替わり、今回旭堂小南陵さんに講談をお勤めいただきます。南陵さんは初回からご出演いただき、この居囃子の会に心よりご支援、ご尽力くださいました。本日は、出演者一同とともに、南陵さんへの追悼と感謝の気持ちを込めて上演させていただきました。

 

休憩をはさんで後半はいよいよ「鉢木」の上演です。
舞台は上野国(こうずけのくに)今の群馬県の佐野地方、大雪の山の中です。まずは冒頭、ワキの旅の僧が登場、その後、家路につくシテの常世が登場し、大雪の中に佇み、『和漢朗詠集』にある白楽天の詩に思いを馳せて零落の身を嘆きます。囃子の演奏が無い静寂の中で発せられる常世の第一声「ああ降ったる雪かな」の一言で、一面の雪景色が思い浮かべられます。続く白楽天の詩の一節は、墨絵のような雪景色ともに、貧窮に苦しみながらも、なお武士の矜持を失わず、風流を解し、品格を保ち続ける常世の在り方が象徴されています。

その後、一旦は宿泊を断った旅僧を再び呼び戻そうと常世が僧に声をかける場面、大雪の中、一人佇み袖の雪を払う僧を見た常世は、まるで新古今和歌集の歌「駒止めて袖打ち払うかげもなし佐野のわたりの雪のゆふぐれ」の心のようだと言います。さらにはもてなしに粟飯を炊く場面では、「邯鄲」の『一炊の夢』の故事を引き比べます。

これに続くのが、常世が、秘蔵の鉢の木を切り火にくべて僧をもてなす前場の聞かせ所「薪之段」と呼ばれる場面です。ここで謡いあげられる、常世が年月をかけて大切に育ててきた鉢の木への愛着は、冒頭の雪景色の場面と共に常世の心象風景の描写が深く心に染み入る場面です。この「薪之段」、『仙人に仕へし雪山の薪』というシテの詞に続きますが、これは釈迦が前世で雪山童子と呼ばれ、雪深いヒマラヤで仙人に仕えて薪を取って修行をしていたとされることに由来し、常世は、その折もこのような雪だったのだろうか思い遣っています。その後僧に促されて自らの素性を語る常世ですが、この場面の「鎌倉に御大事あらば。」以下のくだりがまさに『いざ鎌倉』の語源になっています。

続く僧との別れで中入りとなりますが、ここからは一転、幕府の招集により諸国から武士が集まる、臨場感あふれる場面から劇的な展開へと連なります。まず僧が常世らに見送られて雪の中を帰ってゆく場面、大鼓と小鼓が交互に、かつ徐々に間隔を短くして打たれる『早鼓』となり、これからただならぬことが起こる予感をさせます。入れ替わるように間狂言の『早打』がそそくさと現れて、最明寺殿が廻国を終えて鎌倉に戻ったことを告げると共に、諸国の武士に召集がかかったことを触れます。その後『一声』という登場のための囃子で後ワキの北条時頼が登場します。通常の一声では、まずそのプロローグにあたる「カカリ」で笛と大小鼓の荘重な演奏で役者の登場を誘います。続いて笛の演奏は無く、もっぱら大小鼓の手組の妙を聞かせる短い「越之段」がきますが、今回は、諸国の軍勢が続々と集まってくるイメージで演奏されます。通常は、これに続いて実際に役者が登場するのですが、今回は「カカリ」ですぐに後ワキが登場、「越之段」からいきなり『早笛』という、急な調子で演奏される囃子になだれこむという『鉢木』だけの珍しい形式をとり、臨場感を盛り上げています。『早笛』で表現されるのは、「いざ鎌倉」と、痩せ馬を駆り、みすぼらしいいで立ちに錆びた長刀を携えた常世の登場です。この部分、第一部の講談でお聴きいただく「源左衛門の駆け付け」も思い浮かべながらお聴きください。この後時頼は諸国から集った軍勢の中から常世を見つけ出し、本領を安堵し、鉢の木の礼に梅桜松にちなんだ三つの庄を与え、めでたく幕となります。

間近で聴く謡と囃子によって、叙情的な上野国の雪景色と、軍勢ひしめき活気あふれる鎌倉の対照的な場面が、眼前に生き生きと広がりました。





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