能楽小鼓と文楽三味線で紡ぐ 海士(あま) 〜玉取り伝説〜



謡 梅若基徳(観世流シテ方)
浄瑠璃 竹本津駒大夫(文楽太夫)
笛 藤舎次生(藤舎流笛方)

平成30年7月1日(日)
15:00 開演
白鷹禄水苑 宮水ホール

古くから芸能にゆかりの深い酒都・西宮の造り酒屋から、今に生きる伝統芸能を発信してゆこうという試みの一つとして、白鷹禄水苑では、「能楽小鼓と文楽三味線の饗演」という芸能の新しいかたちをご提案してきました。2012年の「紅葉狩」を皮切りに、「小鍛冶」、「安宅・勧進帳」と上演しご好評をいただいてきましが、4回目となる今回は、讃岐国・志度の浦に伝わる「海士の玉取り伝説」をテーマに取り上げました。今回も大倉流小鼓方、久田舜一郎さんと文楽三味線の鶴澤藤蔵さんを中心に、気鋭の演者達が、能と文楽の世界が渾然一体となる新しい芸能の形に挑戦しました。

「玉取り伝説」とは、中国から贈られた宝珠が志度の浦で龍神に奪われたことを無念に思った藤原不比等(淡海公)が、志度の浦の海士と契り、その女に宝珠を取り返させるというもので、能「海士」の題材となっています。江戸時代に入ると浄瑠璃、歌舞伎などでも取り上げられ、この曲をモチーフとした他分野の作品も少なくありません。それだけこの伝説が題材として魅力的であったといえるでしょう。不比等の子房前(ふささき)の出生譚、藤原氏の女性が唐の妃となった伝説、龍神に奪われた宝珠を取り返す海士の伝承など、様々なエピソードによって、物語はドラマチックに展開してゆきます。山場はなんといっても海士が龍宮から宝珠を奪い返す、能では『玉ノ段』として知られる場面で、子のため、使命のために自らの命を投げ出す一人の海士の気迫が劇的に表現されます。

本編の「海士」に入る前に、浄瑠璃と能楽それぞれ本来の形での演奏をお聴きいただきました。演目は、浄瑠璃では、四季の風物を織り込んだ舞踊劇「花競四季寿」より、夏の題材としてとりあげられたた「海女」、能は「海士」から、『玉之段』を謡、仕舞と鼓でおとどけしました。後に上演する本編では、義太夫で同じ場面をお聴きいただくことになり、両者を聴き比べていただくまたとない機会となりました。

素浄瑠璃「海女」
玉之段


この後、今回の公演に至る経緯などについて、出演者の皆さまにお話しをおうかがいするトークを行いました。異ジャンルとのセッションも含め、新しいことにも果敢に挑み、伝統芸能の現代性を模索し続ける皆様ならではの今回の企画です。新たな物を創り出そうという強い意気込みが感じられるコメントをいただきました。

休憩をはさんでの後半は、いよいよ能と浄瑠璃の響演による「海士〜玉取り伝説」です。
本企画では、能の「海士」と、そこから展開した他の芸能の語りと音楽的要素を単につなぎあわせるのではなく、これらを融合させ、さらにプラスすることによって生まれる、全く新しい、創作「海士」を作り上げました。

トーク


鼓と笛による出囃子とともに藤原不比等(淡海公)の子、房前(ふささき)の大臣が登場、亡き母が讃岐の志度の浦の海士であると知って、その地を訪れた旨とその道行が浄瑠璃で語られます。そこで出会った一人の海士とのやりとりになると謡と鼓にバトンタッチ、唐から贈られた三種の宝のうちの一つ、面向不背(めんこうふはい)の玉がこの浦で龍神に奪われた故事が語られます。これから起こる何かを予感させる三味線の間奏が入り、いよいよ『玉の段』です。淡海公がこの地に来てある海人と 契りを交わし、宝珠を取り返してくれば生まれた子を後継ぎにすると約束します。そこで海士は命がけで海底に潜ります。「かの海底に飛び入れば。」の謡を合図に、海士の決意を表すような三味線と鼓による力強い間奏が入ります。ここから語りは義太夫、演奏は鼓と三味線の合奏となります。深みに沈んでいく様子、深海の静けさを表現する演奏とともに、一旦命を投げ出す決意をしたものの、もう二度とわが子に会うことができない母の悲しみが切々と語られます。一転、力強い演奏とともに決意を新たにした海士の死闘が始まります。竜宮に飛び込んだ海士は自らの乳の下を掻き切って宝珠を守り奪い取りますが、陸に引き挙げられる同時に息絶えます。自己犠牲の痛ましさ、母親の心情の哀れさが胸に迫るとともに、クライマックスにかけては海士の死闘が目に浮かぶような、息をもつかせぬ展開が大きな聴かせどころとなっています。海士の心情の変化、物語のドラマチックな展開が緩急織り交ぜ、義太夫、三味線、鼓で見事に表現され、まさにコラボレーションの妙技を目の当たりにした思いです。こうした様子を一部始終物語り、海士は自分こそが房前の母だと名乗り海中に消え失せます。ここまでが物語の前半です。

後半場面はかわり、房前が亡き母の残した手紙を読み十三回忌の追善供養を営んでいると竜女(りゅうにょ)の姿で母の霊が現れ、法華経の功徳で成仏できたと喜び、経文を唱えて舞を舞います。海士の霊が竜女の姿なのは、古来女性はそのままでは成仏できないので竜女という過程を通過する必要があると考えられていたからです。能においてこの場面で舞われる舞は、「早舞」といって、高貴な男の霊や成仏した女が楽しげにのびやかに舞う、ややテンポの速い舞です。この能の早舞を軸としながらも、鼓はその枠にとらわれない自由でより一層華やかなアレンジで演奏され、そこに三味線も加わったことにより、前場での母親の思いの哀れさに対し、報われた霊の歓喜の舞としてより印象深いものとなりました。

能楽小鼓と文楽三味線で紡ぐ「海士〜玉取り伝説」

数回のリハーサルを通して作り上げた、演奏の流れとしての台本はあるものの、即興的要素が非常に強く二度と同じ演奏をできないと聞いています。それだけに本番に頂点を持ってゆき、エネルギーを爆発させることができる演者達の技量に感じ入ると同時に、より良いものをおとどけして聴衆に喜んでもらいたいという彼らの強い思いがひしひしと伝わってきました。そして何よりもこの千載一遇の機会に出会えたことに深く感謝したいと思います。

 



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