第八回酒都で聴く居囃子の会「砧」



平成25年9月23日(月・祝)
会場 白鷹禄水苑 宮水ホール

古くから芸能と縁の深い酒都・西宮の造り酒屋において、地元在住の能楽師による謡と囃子で、能特有のリズムと言葉の美しさを楽しむ「居囃子」の会。第八回目となる今回は、世阿弥生誕650年の年にふさわしい、世阿弥晩年の名曲「砧」を取り上げました。

会場の舞台中央部分には、萩が咲き乱れる秋の夜に砧を打つ女性を描いた、菊池契月の軸が掛けられています。砧とはもともとは中国から伝わり、日本では古代から使用されている民具で、木の板や石の上に置いた布を木の鎚でたたいて柔らかくし、同時に目をつめて艶を出すのに用いた道具です。古くは秋の夜長の女性の夜なべ仕事として行われ、遠くまで響く砧の音にいかにも秋らしい情趣が感じられるとされ、その詩情を詠んだ歌が、数多く残されています。

公演はまず最初にお酒とも縁の深い狂言小舞「福の神」でめでたく幕を開けました。亡霊が登場することの多い能の上演では、一日の演能をめでたく舞いおさめる意味で、最後に、地謡だけが舞台に居残って祝言曲の終曲部分をつけくわえて謡います。今回は、世阿弥記念の年に演者の皆様のご協力により、「砧」という世阿弥屈指の名曲を禄水苑にて上演することができという感謝と御祝いの気持ちもこめ、祝言をあえて最初に、しかも善竹兄弟によるおめでたい狂言小舞という形で上演させていただきした。


続いて、世阿弥作の「野守」を太鼓の一調でお届けしました。一調とは、謡の「聞かせどころ」を、謡と打楽器(小鼓・大鼓・太鼓のいずれか)、それぞれ一人ずつで競演する演能形式で、能の世界では「重い習い」といい、とても大切にされています。囃子は常とは変わって一段と技巧を凝らしたものとなり、謡も囃子の演奏を生かすように謡うので、囃子と謡の魅力をより一層お楽しみいただけたかと思います。

これに続き南陵さんに今回の演目「砧」の重要なテーマとなった中国の蘇武の故事について語っていただきました。蘇武は漢の人で、遠い異境の地で捕らわれの身になりましたが、夫を思って妻子が打つ砧の音が、万里の長城から遥か彼方にいるにいる蘇武のもとまで届いたというものです。時折笑いも交えた親しみやすい語り口に会場の雰囲気も一気に和みました。

そしていよいよ居囃子「砧」の前半です。夫が訴訟のために都に上ってはや三年。一人寂しく夫の帰りを待ちわびる妻のもとに、その年の暮には帰るという夫から知らせを託された侍女夕霧が訪れます。そこに里人が打つ砧の音が聞こえてきます。そこで蘇武の故事を思い出した妻は、自ら砧を打って心を慰めようとします。しかし、結局は今年も夫が帰れないと知った妻は、絶望のあまり病に伏して死んでしまいます。夫を思い、悲しみにくれるシテの妻が、その慕情を砧の音に込めてと打つ「砧の段」では、シテの内面の心象風景が流麗な詞章で謡われます。間近で言葉に集中して聴くことにより、シテの妻の気持ちがより一層胸に迫り、同時にあらためて日本語の美しさを実感することができました。

休憩をはさんだ後半では、まず南陵さんにこの曲を作曲した世阿弥晩年の境遇について語っていただきました。謎に包まれた部分の多い世阿弥の生涯を、様々に資料に基づき、明瞭かつ簡潔にわかりやすくまとめた語りは、博学多識な南陵さんの真骨頂といえます。 続いて、砧の後半です。帰国した夫が、妻の死を知って供養を営むと妻の亡霊が現れます。亡霊は、恋慕の妄執のために地獄で苦しんでいることを切々と訴えますが、最終的には法華経の功徳によって成仏するというお話です。強弱のみで表現する単調な小鼓のリズムがシテの登場を促し、太鼓の拍子がシテの妻が陥った地獄の責め苦を表現します。間近できく囃子の迫力に圧倒されました。


終演後、カーテンコールで再び出演者に登場いただきコメントをいただくのも、居囃子の会ならではの楽しみです。世阿弥畢生の名曲であり、能楽師にとって難曲であると同時にとても大切にしている「砧」に対するそれぞれの思いを語っていただきました。また今回初出演の、十七歳と二十歳のお人(上田拓司さんと梅若基徳さんのご子息)もご紹介しました。将来を担う芸能者を応援し、伝統を未来につなぐお手伝いをすることもこの企画の重要な意義だと考えています。
世阿弥生誕650年の年に、「砧」の無上の妙味を湛える謡と節、そして詩情豊かな音楽性を通して、世阿弥が晩年に至った能作上の境地の一端にふれていただけたとしたら、幸いです。



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